小学校の授業でパン工場を見にでかけた、あの「社会科見学」。大人になってからも好奇心の赴くままに、普段は入れないあの場所に、みんなで行ってみよう! なんて企画があったら参加したいな思う方は多いはず。今回のラウンジ・スイッチはそんな大人の社会科見学をSNSのコミニティを通じて企画・実施し、『社会科見学に行こう!』などの本を書いたり、『ブラタモリ』に出演したりと、活動を幅広く展開している小島健一さんに登壇いただきました。いま住んでいる長崎から上京くださった小島さんは、自然体の人。メディアに出ている知識人なんて風情とはちょっと違います。なんでも、小島さんはスカブラ(炭鉱労働で生まれた言葉で、すかっとするほどブラブラしていて、周囲を和ませて勤労意欲を上げてくれる人)なんだそうです。
スイッチ・トークでは、まず小島さんの原点から話していただきました。いきなり引き合いに出されたのは、『ノストラダムスの大予言』という本のこと。1999年7月に人類は滅亡すると予言して世界を衝撃に包んだこの本に、若かった小島さんはすっかり影響されて、同年春に大学を卒業するものの「どうせ滅亡するんだったら」ということで就職もせずにアルバイト生活を送っていたそうです。しかし、7月を過ぎても世界は滅亡しませんでした。そこで暇になった小島さんは、WEBサイトを立ち上げること。「20代は空っぽだった」と自らを語る小島さんに、はじめてスイッチが入った瞬間です。この辺りもエピソードもまさに等身大。
小島さんはその後、20時間サイトを更新し続けて結石を患うほどネットの世界に没入。サイトを彩るためにデジタルカメラも購入して、いまや「写真家」の肩書きも持つほどの腕前です。(小島さんのウェブサイトの写真はカッコイイものばかり!)それから、2004年2月に開設されたmixiでは埼玉県野田市の名物グルメ、”ホワイト餃子”のコミュニティを立ち上げます。このコミュで初めて開催した「みんなで餃子を食べに行く」オフ会が小島さんにとっては意外にも面白かったそうで、それがまた、さらなる展開を生むことになります。同年の6月から現在の小島さんの活動の代名詞でもある「社会科見学」を始めたのです。首都圏に広がる地下空間に強く惹かれ、どうしても見たい。ならば、20人ぐらい集まれば見学させてもらえるからと団体をつくり、埼玉県春日部市にある、首都圏外郭防水路が開通するまえに自転車で走ったりと、興味が赴くままに様々な場所を見学。さらにはその様子をブログで発信していました。すると次第にこの「社会科見学」が仕事になっていったというのです。
そこから2010年ごろまで、社会科見学関連の書籍を刊行したり、企業とタイアップしたりと活動を展開。いわば「好きなことを仕事に」という、理想的な働き方を実現させてきた小島さんに転機が訪れたのが、東日本大震災が起きた2011年でした。この年の4月に小島さんはこれまでの社会科見学の活動の集大成となるような『社会科見学を100倍楽しむ本』を刊行しています。ですが、震災のショックに続く出版時のコミニケーションの齟齬などで、心中は穏やかではなかったそう。そこで、以前から関心を持っていた長崎市にある池島に地域おこし協力隊として移住することにしたのです。1952年に開かれた炭鉱の島は、小島さんにとって歴史を感じる廃墟がある、大好物だらけの島。ここで暮らす人々の現実とも向き合いながら、池島の貴重な映像資料を発掘してアーカイブしたり、池島の風景写真から島を3Dデータに起こしたりと、社会科見学で培った知見を、池島で掘り下げて活用することにトライしています。その功績から、池島を訪れる観光客はなんと10倍になったとか。NHKの人気番組『ブラタモリ』の収録で、タモリさんも来てくれたそうです!
現在は研究員として大学で長崎3Dプロジェクトを手がけているという小島さん。でもそろそろまた、どこかの地域で暮らしながら歴史や場を掘り下げてみたいと思っているそう。そう話す小島さんに、ラウンジ・スイッチのゼネラルマネージャー、上田壮一さんは「素直に面白いことをやって、素直につまらないことを捨てていくのがいいなと思った」と言います。確かに、世の多くの人は小島さんのようにスカッと自分に素直にやりたいことを選べるかというと、そうでもありません。小島さんは「僕がおもしろいと思ったことは、みんなが面白いと思うだろうって思うんです」と話していました。そんな小島さんのピュアさに、様々な人が惹きつけられてどんどん巻き込まれ、大きなムーブメントにつながっていくのでしょう。まずは動くことで自分のスイッチを入れると、それが結果的に周囲の人のスイッチを入れることにつながるんですね。
さて、ラウンジ・スイッチは次回でいよいよ最終回です。話し手の「活動」というよりもむしろ「人生」を聞くかのようだったラウンジ・スイッチ。「社会をちょっとだけ良くしたい」。そんな思いを抱き、自分の内側から溢れ出るエネルギーをそのまま行動に移して活動を展開してきた各回のオーガナイザーの姿には、毎回違った驚きやヒントが散りばめられていました。
次回は、以前もおもいやりライト運動のイベントに協力くださった、クリエイティブディレクターでコピーライターの並河進さんが登場します。最終回は「並河進のソーシャルコピー講座」を開催してくださるそう。コピーだけではなく、企画のアイデアづくりにもチャレンジできたりと、参加者全員で、クルマのヘッドライトの早期点灯を呼びかけるコピーづくりやアイデアづくりに取り組んでみます。
あなたのスイッチを「ON」するラウンジ・スイッチ。心にスイッチが入ったら、夕暮れ時には早めにヘッドライトを点灯して、おもいやりの灯りで社会をちょっと素敵に変えてみませんか?